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脳実質外腫瘍・小児の脳腫瘍

執筆:鶴巻温泉病院 院長 鈴木 龍太

この項について

この項では脳腫瘍の一般的な知識を書きましたが、脳腫瘍には多くの種類があり、それぞれ治療法も違います。

《メニンジオーマ》

脳は髄膜という3層の膜で覆われています。この膜の細胞からできる腫瘍が髄膜腫(メニンジオーマ)です。ですから髄膜腫(メニンジオーマ)は脳の中にできるのではなく、脳の外で、脳を圧迫するように成長します。
殆どの場合は良性ですが、できた場所によっては摘出しにくいものもあります。
髄膜腫は良性でゆっくり発育しますから、かなり大きくならないと症状はでてきません。
全く無症状で、頭部外傷などで偶然CTを撮るとびっくりするぐらい大きな髄膜腫が見つかることがあります。

脳腫瘍のうち20-30%を占める頻度の高い腫瘍で、40-60歳代の成人に発症することが多く、女性に多い傾向が見られます。

どんな症状

髄膜腫(メニンジオーマ)は良性で数年から数十年かけて発育します。脳は出血のように急に変化がおこるとすぐに症状がでますが、ゆっくりした変化に対しては順応するので症状はなかなか出ません。髄膜腫は脳の周りの色々なところにできますが、大脳半球の表面の部分にできるものが一番多く、この場合の症状はけいれん発作片麻痺頭痛などです。

他に脳の底面に近い部分にできるものもあり、この場合脳から出ている神経を巻き込みその神経の症状がでます。多いものでは視力低下、嗅覚脱失(匂いが分からない)、複視(ものが二重に見える)、顔面感覚鈍磨(顔の皮が一枚厚くなったような感覚)などがあります。
前頭葉の部分の髄膜腫が大きくなると、性格変化(深刻なときでも幸せそうにしている多幸症、自発性の欠如など)や認知症が起こることがあります。

どんな診断・検査

 他の脳腫瘍と同様にCTやMRIで分かります。小さな物では分かりにくいので造影CTや造影MRIが必要です。脳腫瘍は目の症状で発症することが多いので、眼科ではっきり分からないものは脳の検査を行ってみることが必要です。
髄膜腫(メニンジオーマ)と診断できた場合は脳血管撮影の検査を行って、どの動脈が腫瘍に栄養を運んでいるかを確認します。

どんな治療法

良性の腫瘍ですから、手術で全摘(全部取ること)することが最良です。しかし肉眼的に全摘しても10%前後の例で再発します。ですから、髄膜腫の(メニンジオーマ)患者さんは手術で取った後も定期的に検査が必要になります。けいれんで発症した人は、腫瘍がなくなってもけいれんの起こる脳はそのままですから、抗てんかん薬は当分飲みつづけます。また頭蓋の底の方や、深い場所にできることも多く、手術で完全に取ることができないものが30%程度あります。
取り残した腫瘍に対しては大きくならなければそのままでいいのですが、場合によってはガンマナイフで治療することがあります。この場合は腫瘍がなくなるというよりは、腫瘍の成長を止めると言った考え方になります。稀には悪性の髄膜腫もありますし、非常に血管が多くて手術で大出血する場合もあります。

《下垂体腺腫》(ピチュイタリーアデノーマ)

どんな病気

大脳の真中にぶら下がるようにして脳下垂体というものがあります。ここでは成長ホルモン、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモンなど色々なホルモンを出しています。この部分にできた良性の腫瘍が下垂体腺腫(ピチュイタリーアデノーマ)です。これは大きく二種類に分けられます。ホルモンを異常に分泌するホルモン分泌性腺腫とホルモンを出さない非機能性腺腫です。ホルモンを出すものは症状が出やすいので小さいうちに見つかりますが、非機能性腺腫は症状がなく、かなり大きくなって目の神経(視神経)を下から圧迫するようになり、視野障害視力障害が起こって始めて分かることが多いです。下垂体腺腫は腫瘍といっても頻度の高いもので、全く正常の人を調べると数%で小さな症状を出さない下垂体腺腫が見つかります。症状さえなければ放置していて良いものだと言えます。

どんな症状

ホルモン分泌性腺腫は分泌するホルモンによって特徴的な症状がでます。最も多いものはプロラクチン産生腺腫で、女性では生理が止まり(無月経)、出産していないのにおっぱいを押すと乳汁が出てきます(乳汁分泌)。正常のプロラクチンの値は20-25ng/ml以下ですが、プロラクチン産生腺腫の場合は100ng/ml以上になります。血圧の薬や胃潰瘍の薬、精神科で使う薬でもプロラクチンが高くなることがありますが100ng/ml以下の場合が殆どです。男性では殆ど症状がないので大きくなるまで分からないことが殆どです。

次に多いのが成長ホルモン産生腺腫です。成長ホルモンが異常に産生されると、子供では巨人症(異常な高身長、額やあごの出た、唇の厚い特有の顔貌)になり、大人では先端巨大症(末端肥大症、手や足の肉が分厚くなる、額やあごが出る、唇や舌が分厚くなる)となります。また手に汗をかきやすかったり、皮膚がべとべとしていたり、糖尿病にもなり易いのが特徴です。逆に成長ホルモンが出ないと小人症となります。成長ホルモンは夜間寝付いた頃に多くでます。身長の低い子供では病院に一泊して夜間の成長ホルモンを測定し、不足している場合は成長ホルモンを投与して成長を促進させることができます。副腎皮質刺激ホルモンを異常に産生する腺腫はでは副腎を刺激して副腎皮質ホルモン(いわゆるステロイド)を大量に放出し特有の症状を示すクッシング病になります。クッシング病では身体の中心部の肥満、満月様顔貌、妊娠線のような皮膚伸展線条、にきび、多毛と言った症状がでます。また高血圧や糖尿病を合併します。

一方非機能性腺腫は大きくなるまで症状がでません。大きくなると下垂体の上にある視神経を圧迫して両目の外側が見えなくなる両耳側半盲になります。更に圧迫すると眼鏡をかけても視力がでない状態になります。また大きくなると本来の下垂体の機能が低下して、下垂体機能低下症となります。この場合皮膚が乾燥し、レモン色になり、体毛が薄くなります。女性では無月経、男性では勃起不能や性欲低下をきたします。

今迄のホルモンは下垂体前葉といって前の方から分泌されるものでしたが、抗利尿ホルモンは下垂体の後葉といい後ろの方から分泌されます。抗利尿ホルモンは作られる場所が下垂体ではなく、その上の視床下部というところなので、下垂体腺腫(ピチュイタリーアデノーマ)で異常に出てしまうことはありません。逆に下垂体の変化で分泌低下となります。このホルモンの分泌低下で尿崩症がおこります。尿崩症は尿がコントロールできずに大量に作られてしまう病気で、1日に10リットル以上尿が出ることもあります。尿崩症は下垂体腺腫の症状ではありませんが、下垂体腺腫の手術をした後や、下垂体近傍の別の腫瘍の時に起こるものです。

どんな診断・検査

 今挙げたような症状がはっきりすれば、病院へ行くと思います。しかし、プロラクチン産生腺腫の場合は産婦人科、目の症状の場合は眼科、クッシング病の場合は内科にまず行くと思います。そこで疑わしい場合は脳神経外科か内分泌内科に紹介されることになりますが、結局分からない場合もあります。ですから今あげたような症状の場合は直接脳神経外科か内分泌内科へ行って下さい。ホルモンの異常から下垂体腺腫(ピチュイタリーアデノーマ)があることは診断できます。そこでMRIを撮ることになりますが、大部分はMRIでわかりますが、小さな物では分からないこともあります。特にクッシング病の診断は難しく、脳の静脈から採血をして調べることもあります。視野障害や末端巨大症の場合は自分で気が付かないこともあります。外来で別の症状で来た患者さんの顔を見て末端巨大症を疑ってMRIを撮ったら下垂体腺腫があったこともあります。成長ホルモン産生腺腫やクッシング病では全身の老化が進みますからきちんと治療することが必要です。

どんな治療法

 手術療法と内服療法があります。手術は基本的には経鼻手術といって、上の歯茎か、鼻の穴から手術をします。非常に大きい場合や経鼻手術で取れないような腺腫には頭蓋骨を開ける開頭手術を行うことがあります。

 治療は腺腫の種類によって変ります。プロラクチン産生腺腫に対してはブロモクリプチン(パーロデル)と言う薬がよく効きます。ブロモクリプチンで75%のプロラクチン産生腺腫がコントロールできますが、薬をやめられないのと、消化器系の副作用で飲めない人がいることが問題です。プロラクチン産生腺腫は若い女性で妊娠を希望している場合に一番問題になります。ブロモクリプチンでも妊娠は可能となりますが、妊娠中に腺腫が急に大きくなることがあります。手術でも小さなプロラクチン産生腺腫の90%が妊娠可能となります。どちらにするかはその症例によると思います。大きくなって視力が低下しているような場合は手術を行うことが多くなります。成長ホルモン産生腺腫とクッシング病に関しては手術が基本になります。手術で完全にホルモンが正常化しない場合は放射線やガンマナイフをかけたり、最近内服や注射でホルモンを抑える薬ができているので、その薬を使う場合があります。非機能性腺腫は手術が基本になります。

《聴神経鞘腫》(ちょうしんけいしょうしゅ)

どんな病気

脳と耳の間には聴神経で連絡されています。聴神経は聴力に関係する蝸牛神経と平衡感覚に関係する前庭神経からなります。この前庭神経にできる良性腫瘍が聴神経鞘腫(ちょうしんけいしょうしゅ)です(前庭神経鞘腫とも言います)。
30代から見られ女性にやや多い傾向があります。神経鞘腫は頻度は少ないですが聴神経以外にも三叉神経など色々な神経にできることがあります。


どんな症状

この病気になると耳が聞こえにくくなり、特に電話の声が聞き取りにくくなります。耳鳴りも多く見られます。腫瘍が大きくなると顔面神経麻痺と言って、片方の瞼が閉じにくくなったり、口が歪んで、食べ物がかみにくくなったり、よだれが出るようになったりします。顔の痺れも見られます。さらに大きくなるとふらつきや手の震えなどの小脳の症状が出て、場合によっては水頭症による頭蓋内圧亢進症状をきたします。

どんな診断・検査

 大きな物はCTで分かりますが、小さなものはMRIが必要です。

どんな治療法

以前は脳神経外科、耳鼻科の一部で手術で摘出していました。良性腫瘍なので全摘することが理想です。手術では小さな腫瘍では聴力を温存することができる場合がありますが、大きな腫瘍で既に聴力が低下しているものでは聴力は戻りません。また大きな腫瘍を手術した場合30%程度で顔面神経麻痺が起こっています。
最近では3cm以下の小さな物はガンマナイフで治療することが多くなってきました。ガンマナイフでは腫瘍が小さくなったもの30-40%、増大が止まったもの50-60%で全体で90-95%が有効です。1年後に50%ぐらいの人で有効な聴力が温存でき、顔面神経麻痺は10%で起こるだけです。
ガンマナイフは3cm以下の腫瘍にしか適応がありませんから早期発見が肝要です。

《子供の脳腫瘍》

どんな病気

子供にできる脳腫瘍は今迄述べた成人の脳腫瘍とは随分違います。脳の中心部や小脳にできるものが多く、水頭症で発症する場合が多くあります。多いものは髄芽腫、上衣腫、胚細胞腫、頭蓋咽頭腫、良性星細胞腫などですが、詳しいことはここでは述べません。


どんな症状

幼児は頭蓋骨の縫合が強くなく、頭蓋内圧が高くなっても頭蓋が大きくなって症状が出にくい場合があります。また子供は自分の症状を訴えられませんから、その点でも診断が難しくなります。
症状は行動異常、発育発達遅延、嘔吐が最も多いもので、頭囲拡大と食欲低下も見られます。

どんな診断・検査

乳幼児の場合は頭のてっぺんに大泉門と言って骨のない部分があります。起きている時は少しへこんでいるのが普通ですが、泣いたり力んだりするとプクっと膨れて緊張します。頭蓋内圧亢進があると絶えず膨れた状態になります。また健康診断で頭囲を測定すると思いますが、頭囲が標準よりずれて大きくなってきた場合は要注意です。診断にはCTやMRIが必要です。
幼児の場合は動いてしまうので、検査が行いにくくどうしても必要な場合に眠る薬を飲ませて検査を行います。検査を簡単に行えないために診断が遅れることがあります。

どんな治療法

良性星細胞腫のように手術で全摘すれば治るものもありますが、多くは手術で摘出後、放射線療法、場合によっては化学療法を行います。水頭症の場合は緊急に脳から髄液を外に出す脳室穿刺を行っておいて、その後に検査をしてから手術を行う場合もあります。2歳以下の小児に放射線治療を行うと将来知能低下が起こることが多いので、放射線治療の代わりに化学療法を主にするようになってきています。

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